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ロンフィ社


ロンフィ社は野永恭一が起こしたソフト会社で、業界では大手のインターネットサービスの提供会社である。
野永恭一が起こしたソフト会社は先にレンフィ社であるが、
警察・検察により潰さたので、後に設立した会社なのです。
2040年の春、その顧問室に90歳になる野永がいた。

野永恭一の元に、昔の部下金軍宙が訪れる。
やや緊張した顔で、
「社長、お久しぶりです」
「僕ですよ、金軍宙ですよ」
「レンフィ社でお世話になっていた。金軍宙です。」
「30年に前のことなんで」と徐々に笑顔を振りまいて言う。

暫く怪訝な顔をしていた、野永恭一はやっと思い出した。
「おーおうおう、おーおーおーおーおー金軍宙か」
「ほんとに久しぶりだな」
「元気だったか」
「そうか、元気そうだな」と一気にしゃべる。
「まあ、座れよ」
そう言われ、金軍宙は、
「社長、お久しぶりです」
「本当は、社長の前に出られる顔じゃ無いんですが」
「あれから30年になります」
「あの時は、本当にすいませんでした」
「あれから、ずーと僕は苦しみました」
「社長を裏切ってしまいましたから」
「後悔したんですよ、ホントですよ」。と言うと。

そこへ秘書がお茶を持って現れたので、
野永恭一は金軍宙に、
「あんた、いくつになった」と聞く、
そして、頭を撫でながら、
「僕ですか、僕は今年で59歳になります」言う。
「奥さんは、元気かい」
「はい」
「そうか、それは良かった」。
と、野永恭一と金軍宙の何気ない会話が続く。


そして、金軍宙は秘書がテーブルを離れると、
部屋を出て行くのを、目で確かめ、
秘書がドアを閉めると、野永恭一の顔を正面から見ると、
「実は今日は、社長に大事な話があって来ました」と少し俯向き加減に言う。


金軍宙は、「社長怒らないでくださいよ」
「これは大事な話なんですから」と言う。

野永恭一は、
「わかったよ」
「わかったよ、でも怖いね、お前が言う時はなにか起きそうな気がするよ」
「面倒な話は聞きたくないよ」
「もう、私はお前の事は気にして無いからね」
そう言う。

金軍宙は、「少し、面倒かも知れません」
「面倒でも聞いて欲しいんです」と真剣な表情で言う。

金軍宙の厳しい表情に驚いた野永恭一は、
「いやだよ」とは言ったものの
「なんだよ、わかった」
「じゃー言って見ろ」と言う。

すると、金軍宙は、
唐突に、「社長が死ぬときに、僕に見送らせてください」と言う。

野永恭一は、すこし驚いて、また少し考えこんで、
「いいよ、そんなこと」
「第一、俺はまだ死なないよ」と不機嫌そうにいうしか無かった。

すると、金軍宙は不機嫌そうに、
「僕は冗談に言っているんじゃありません」
「ただ、見送るだけじゃありません」
「ちゃんと、まじめに話をしますから、まじめに聞いてくださいよ」 そして、
「社長」と強く言う。

野永恭一は、迷惑そうに、
「わかったよ、好きにしてくれよ」
「私が死んだ後は、息子が好きにするさ」
「息子に言っとくよ、俺が死にそうなときは、金軍宙という昔の部下が、
私の死に顔を見たいというから、見せてやれよ。そう言っとくよ」
と不貞腐れ気味に言うと。

金軍宙は、
「社長、だから怒らないでくださいとお願いしたでしょう」
と少し怒りを表情に出して言う。

野永恭一は、愛想が尽きたかのように、
「仏教はね、輪廻転生、生まれたら、死ぬ、そして又生まれてくる、この繰り返しだよ」
「私はね、儒教の信者じゃないから祖先神にはならないよ」
「ご先祖さまにはならないよ」
「でもね、また人間に生まれてきたいよ」
「どこの誰として生まれてくるかはわからないけどね」
「できれば、あんまり苦しむ人生は送りたくないからね」
「私はね、今世はね、波瀾万丈だったよ、ずいぶん苦しんだよ」
と一気に言うと、こんどはゆっくりと
「来世はね、平凡な人生を送りたいよ」
と言う。
すると、金軍宙が、しゃべろうとするのを遮るように
「今世、やり残したことは、あの事件の恨みを晴らしたかったっよ」
「あんたじゃないよ、あの事件の警察官ら、そして検事ら、裁判官もね、それから弁護士もね。
奴ら人間じゃないからね。人間の面をかぶった畜生だよ。欲に眩んだ畜生だよ。」

「私はね、言ったんだよ、起訴される前の日、警察官にね、
「100年かかっても許さない、恨みを晴らすとね」
「そんあこと言ってる間に、私の人生も終わりのようだね」
と言う。
「あははは」と笑うと、しゃべりすぎて喉が渇いたのか、お茶を口に持って言った。


暫く、沈黙すると、
こんどは、金軍宙が、一気に思いを語りはじめた。
「社長、僕は、来世、また社長にお会いしたいんです」と言う。
またも、「社長、怒らないでください」と言うと、

「社長、社長が死ぬとですね、日本で捨て子(すてご)、棄児(きじ)で生まれて欲しいんです」と言う。
そして、「社長の死んだ後10月10日後に生まれて、
捨て子(すてご)、棄児(きじ)となっている赤ちゃんを僕が探します」
「それが、社長の生まれ変わりなんです」と般若の面が語るように言い放つ。

野永恭一は、金軍宙はおかしくなったのじゃないかと思いながらも、背筋が冷たくなるのを感じた。
しばし、呆然としていると、

金軍宙が
「僕は、まじめに言っているんですよ」
「社長に生まれ変わって欲しいんです」
「社長は言ったじゃないですか、100年かかっても恨みを晴らすと」

そう言われても、野永恭一は、言葉が出なかった。
すると、金軍宙は再び、
「社長、社長が死ぬとですね、捨て子(すてご)、で生まれて欲しいんです」。
「そうでないと探せないんです」
「社長が死んだ後10月10日後に生まれてきて、捨て子(すてご)、になっている赤ちゃんを僕が探すんです」
「その赤ちゃんは、社長の生まれ変わりなんです」
「そして生まれた社長を僕が育てるんです」
と今度はは泣くように言うのだった。

それで、野永恭一は、
「そう言われても、死んだ後はわからんぞ、人間なあ、死んだ後は、今の私じゃないからね」
「わからんよ」と言うと
「あはははは」と笑い転げるのだった。

すると、金軍宙は
「いいんですよ、これは社長と僕との約束です。
「もし、探せなかったら、諦めます」
と、自信ありげに言う。

それで、野永恭一が、まだ半分冗談で、
「わかった。そうしよう。お前の子供になろう」と言うと、

金軍宙は、真面目な顔つきで、
「いえ、僕の子供ではありません。僕の娘夫婦の子どもとして引き取ります」
と言う。

それで、野永恭一も、金軍宙の娘が出てくるので、
何やら現実の世界へと吸い込まれて、
「あんたさあ、娘がいたの」と聞くと、
「ええ、中国に帰されてから生まれました。」 「息子は、日本で生まれましたが、娘は中国で生まれました」
「そうだったのか」と言うと、

金軍宙は、
「娘は、僕と同じように高校を卒業すると、僕が日本に出したんですよ」
「日本語学校に入り、そして大学に進学して、そこで日本人と恋仲になりましてね、
卒業すると同時に結婚したんですよ」
「結婚の相手は、長島靖雄と言うんです」
「娘の名前は、雪梅と言います。長島雪梅です」
「せつばいと言うのは、言いにくいので、ゆきうめと読んでいます。」
「みんなは、ゆき って言っています」
と嬉しそうに言うのだった。

「それで、あんたは今どうしてるの」
と野永恭一が言うと、

「はい、日本に20年ちかく前に来て、中華料理店を始めました」
「田端で始めたんですが、今は5店ほどチェーン店を持っています」
「それで、娘婿の長島靖雄も専務として一緒に働いているんでしょ」
という。

「あんた、前の店も繁盛していたらしいから、商売、うまいんだなあ」
と野永恭一が言うと、

「社長に教わったじゃないですか、子供にサービスしろと」
「前の店も、インターネットで仕入れて子供に駄菓子を配りはじめたころに捕まったんですよ」
と言うと、冷めたお茶を口に持っていったので、

野永恭一が立ち上がって、机に向かい受話器をとると、
「お茶のおかわりを、いや・・」と言うと、
金軍宙の方をむいて、
「あんたコーヒーを飲むかい」と言うと、
「はい、頂きます」と言うのを聞いて、
「すまんが、コーヒーを2つ」と言って受話器を置くと、
ソファーに戻って来て、

「あんたさあ、あん時、入管法違反幇助だけだったよな」
「入管法違反幇助だけだったら、私と同じで不当逮捕だよ」
「まあ、不法就労に対する幇助だから、刑法の幇助罪は適用されないしね」
「それに、起訴状に書かれている、虚偽の雇用契約書を渡したとしても、
彼らは、虚偽の書類を提出したとして在留資格の取消処分を受けていないから、
その幇助は成立しないな」
「あんたがお金を貰っていても中国人の常識だからな、それに日本の法律では何の罪にもならんよ」
「2010年の7月だから、彼らが在留資格の取消処分を受けていれば、
あんたは、他の外国人に虚偽の書類を作って渡したとか、幇助したとか、教唆したとかで、
在留資格の取消処分の追加条項で、国外退去強制の処分を受けるところだけど、
肝心の彼らが、虚偽の書類を提出したとして在留資格の取消処分を受けていないから、
やっぱりあんたも無罪だよ」
「不法就労の方は、あんたが告白したのに、あんたの不法就労は罪にしないんだよね」
「だからやっぱりあんたも無罪だよ」
と言うと、ドアの方に目を向けた。

ちょうどその時、秘書がコーヒーとケーキを持って入ってきた。
コーヒーとケーキをテーブルに並べると、
「ケーキはこちらのお客様からの「戴き物です」と言う。

「すまないね」と野永恭一が言うと、
「社長は、お酒がいいかなと思ったんですけど」と言う金軍宙に、

「うん、最近は弱くなってね、それに昼間からはね」
「あはは」と野永恭一が、嬉しそうな顔つきで話すので、
秘書が、にっこりと笑って野永恭一と金軍宙を見つめ、
「どうぞごゆっくり」と言って立ち去る。

二人は、コーヒーを美味しそうに口に含むと、
笑みを浮かべた。
二人の間に温かいコーヒーの香りが漂った。
香りの漂いを感じると、二人は目を合わせるように笑みを浮かべた

金軍宙は秘書が、ドアを締めるのを確認すると、
「そのことなんですけどね」
「社長に嘘ついて中華料理店の厨房で夜働いていたことを正直に話して、
奴らの不法就労と社長は、全然関係ないことを言おうと思ったんです。」
「しかしですね、それが、検察に利用されたんですよ」
「なんか、あの取調べは無茶苦茶でしたよ」
「検察官がね、もう調書の筋書きを作っているんですよ」
「調書の筋書きにそって少しだけ質問して、質問の筋書きから逸れた話をするとね、
質問にだけ答えてくださいというんですよ」
「そしてね、調書に署名しないと、貴方は早く中国に帰りたくないのですか、
貴方だけは、早く帰してあげようと思っているのに、
署名しないと、返すわけにはいかなくなりますよ、
奥さんも子供さんも、あなたの帰りを待っているのと違いますか、
それにね中国のお父さんにも迷惑がかかるかも知れませんよ、
そんなことはしたくないでしょう、と言うんですよ」
「本当に馬鹿でした。すいませんでした。」
そう言うと、金軍宙は涙を浮かべてしまった。

野永恭一が
「もういいよ」と言うと、

金軍宙は、
「社長、僕はですね、再審請求したんですよ」
「中国に帰って、何年かしましてね、お父さんのお陰で仕事も成功したんで、
日本で法律を勉強したことがあって、日本の法律に詳しい、中国人の弁護士に相談したんですよ」
「そうしたら、僕は無罪だって言うんですよ」
「奴らがした不法就労に対する幇助罪は、社長が今いったように、
不法就労に対する刑法の幇助剤は適用できない。 また起訴状の訴因、つまり内容虚偽の雇用契約書を作成したから、
その幇助罪は、入管法の在留資格の取消で規定されている言うのです。」
「もちろん奴らは、虚偽の書類を提出したとして処罰されていないので、
奴らが内容虚偽の雇用契約書を提出したから不法就労できたので、
不法就労に対する刑法の幇助罪は適用できないと言うんです」
「僕たちは、奴らに騙されたのです」
「すぐに再審請求の手続を取ってもらいました」
「結果は当然無罪でした」
「変ですね、日本人より、中国人の弁護士の方が日本の法律を知っているなんて」
「これはね、中国でもニュースになったんですよ」
「日本には、法律でしか罪を科すことはできないと言う立派な憲法があるのに、
現実は、裁判所でも、法律に基づかないで罪にしている。」
日本の法律はあって、ないようなもんだと言われといます」 そして、最後に

「国連でも日本の司法制度が問題になったんですよ」

そういうと、金軍宙はコーヒーを口に含んだ。

金軍宙のコーヒーにつられて、野永恭一もコーヒーを口に含み、
「知らなかったなあ」
「そんあニュースは流れなかったなあ」
「日本も都合の悪いニュースは流さないんだな」
と大きくため息を付いた。

それで、金軍宙が、
「悔しいじゃないですか」
「それで、さっきの話何ですよ」
「僕、昔、社長に言われて仏教を勉強したんですよ」
「社長、良いですか、もう一度言います」

金軍宙は、真面目な顔つきで、
「社長、社長が死ぬとですね、捨て子(すてご)、で生まれて欲しいんです」。
「そうでないと探せないんです」
「社長が死んだ後10月10日後に生まれてきて、捨て子(すてご)、になっている赤ちゃんを僕が探すんです」
「その赤ちゃんは、社長の生まれ変わりなんです」
「そして生まれた社長を僕が育てるんです」
「いえ、僕の子供ではありません。僕の娘夫婦の子どもとして引き取ります」
「長島靖雄と言うんです」
「娘の名前は、雪梅と言います。長島雪梅です」
「それでですね、もしもですよ、社長が死ぬときは、僕に立ち会わせて貰いたいんです」
「息子さんに、そう言って約束しておいて貰いたいんです」
「きっとですよ」

金軍宙がそう言うと、
野永恭一は、今度は「わかった。約束するよ」とはっきりした口調で言うのだった。

そんな事があって、金軍宙は野永恭一のもとを度々訪れるようになった。
息子、野永恭一にも引き合わせ、野永恭一の死に際には金軍宙が立ち会うことを約束したのだった。
奇妙な話であったが、ロンフィ社の専務である息子の恭介も承知してしまった。

もっとも野永恭介にとって、親父の友達が臨終に立ち会うだけの話であって、
生まれ代わりについては、心のなかで笑い飛ばしていた。

それから野永恭一は、毎日、パソコンに向かって資料をつくる日々が続いた。
秘書が心配するほど熱中してパソコンに向かっていた。

そして、2040年の12月のはじめ、訪れた金軍宙に、
資料を保存したUSBメモリーと紙の資料の入った黒いかばんを、
渡したようである。

そして数日後、訪れた金軍宙と、打ち合わせはそこそこに、
秘書には、
「少し早いが、金軍宙さんと1軒寄るところがあるので出かけるよ、
帰りはね、彼と美味しい酒でも飲んでそのまま家に帰るよ。
ああ、車はね、タクシーを拾うからいいよ」
と言って二人で出かけた。



2041年の早春、野永恭一が91歳のある日、
野永恭一は病院で家族と金軍宙に見守られて老衰がもとの肺炎で死去する。
穏やかな顔ですが、旅行にでも行くようなウキウキした死に顔だったと金軍宙は後に語ります。

金軍宙は、日本中の病院に手紙に手書きを出します。
11月30日ごろ生まれた男児の、捨て子(すてご)、棄児(きじ)が貴病院で保護されたら、
私金軍宙か引き取りたいので弁護士山田陽一まで連絡いただきたいとの趣旨を弁護士名で発送した。
そして、各地の県警にも弁護士の趣旨書をもって挨拶に廻った。
どこも怪訝な顔で対応されたが、弁護士の趣旨書があるので一応話は聞いてくれた。

誰がみても奇妙な行動だったのです。
しかし、金軍宙にしてみれば、ここが正念場だったのです。
何とか、男児で生まれて欲しい。

そうして運命の10月10日後の2041年の年11月30日が来るのです。

11月30日の明け方、同じ病院の駐車場で、男の赤ちゃんが棄てられているのを、
守衛が見つけて看護婦に連絡すると、すぐに措置がされ、元気になった赤ちゃんは新生児室で保護されたのです。
警察も駆けつけたが、院長がおかしな話を思い出して、
院長は何が起きたのかわからないほど動転していました。
警察官から連絡を受けた県警本部も、狐に包まれたような騒ぎです。
弁護士山田陽一からは、事前に届け出るのでマスコミには事務的に発表するだけにして欲しいと、
釘をさされているので、事務的に対応します。
そして院長は弁護士山田陽一へ連絡したのです。

弁護士山田陽一は病院から連絡を受けると、まさかと思いました。
血の気が引くようでした。
偶然はあります。
たまたまもあります。
たまたま予定の日に、男児の捨て子、棄児が病院で保護されただけです。
そう思って、冷静に、金軍宙へ連絡をしたのです。

金軍宙は、もちろん明け方から電話を待っています。
ベルが鳴ったのは10時を過ぎていました。
弁護士山田陽一の声を聞くと、
「生まれましたね」と弁護士山田陽一の報告を聞くまでもなく念を押したのです。
弁護士山田陽一は「はい、生まれました」とオドオドそて言います。

金軍宙は、
「どこですか、どこにいるのですか」
もどかしげに、弁護士山田陽一に声を荒らげて督促します。
そう言われると、弁護士山田陽一も声がでて来ません。

「先生、先生」と金軍宙の声が受話器から荒々しく響いて来ます。
気を取り戻した、弁護士山田陽一はようやく冷静に、
報告の詳細を金軍宙に伝えるのでした。


金軍宙は急いで駆けつけ、野永恭一の生まれ変わりと対面した。
やっぱり、ずいぶん大きな赤ちゃんだ。
野永恭一も生まれた時、大きな赤ちゃんだったと聞いていたので、
やっぱり生まれ変わりだと、自らを信じこませた。
可愛いというよりもやっと願いが成就した思いがいっぱいで涙を浮かべるのだった。

病院の職員にも噂は広まっていたが、金軍宙は一向に気にするようではなかった。
思ったよりマスコミの取材もなく、静かな日々だった。
1週間ほど、金軍宙夫婦と長島靖雄夫婦は病院に通って赤子の世話をした。
野永恭一の息子恭介も病院を訪れたが、
「ふーん、これが親父の生まれ変わりですか」とおどけた声で言う。
もう少しいいようがあろうに、と金軍宙は思ったが黙っていた。
野永恭介が、赤子の足の指を見ている。
そして、第4足指つまり足の薬指を触って、「大丈夫だ、奇形じゃない」と言う。
金軍宙もこれは、初めて聞くことだったので、
「それがななにか」と野永恭介を問い詰めると、
野永恭介は「親父も私も、足の薬指が奇形なんですよ、足の中指のほうに曲がっているんですよ」と言う。
そう言われた、金軍宙は、
「それはね、物理的な親子はそうなんですよ、遺伝子がそうするんですよ」
「でもね、生まれ変わりは、遺伝子以前の因果律なんですよ」
「つまりね、親子の関係は性行為によって血縁で引き継がれるが、その子の生命の起源が因果何ですよ。」
とムキになって説明するが、野永恭介にとってはどうでもいいことであり、
生まれ変わりなんて信じていないのだから、
「ふーん、そうなんですか」と言って相手にしない。

男児の名前は、金軍宙が恭介と名づけた。 長島恭平である。
そして、所定の手続きが終わると、長島靖雄夫婦のもとに引き取られ、 長島靖雄夫婦は金軍宙夫婦と同居して、長島恭平の育児が始まった。

野永恭一は3歳の時に、小児結核を患ったと聞いていたので、ずいぶん心配したが、
肺炎にかかったくらいで大した病気にもならず安心した。

長島恭平は小学校に入ると、背丈は一番大きかった。
因果律を言うわりに、金軍宙はひとり納得しているのだった。
それから中学校、高校と、長島恭平は順調に成長していった。


長島恭平が高校に入る時に、出生の秘密を長島靖雄夫婦と金軍宙夫婦は時間をかけて説明したが、
生まれ変わりについては、長島恭平は冗談だろうと聞き流すほどの大人に成長していた。
話を聞く前に自分が長島靖雄夫婦の実子でないことはうすうす知っていたので驚かなかったし、
長島恭平自身が長島靖雄夫婦を実の父母以上に大切に思っていたので心配することはなかった。
また、金軍宙夫婦についても実の祖父母以上の親しみを覚えていたので、
この事が、後になっても、全く障害になることはなく、
血のつながった関係以上のつながりを感じる家族だった。
ただ、野永恭介については、全くの他人としてしか認識できなかった。
野永恭一については、長島靖雄夫婦と金軍宙夫婦の入れ込みを感じて、
それだけの素晴らしい男だんだと感じて、人一倍興味を感じていた。
そういう感じもあり、自分が野永恭一の生まれ変わりと言う長島靖雄夫婦と金軍宙夫婦の説明を、
信じはしないが、誇らしく思う気持ちが湧いていた。

長島恭平が大学入ると、野永恭一を誇らしく思う気持ちは時に金軍宙以上であったかもしれない。
そして、金軍宙の影響もあり、仏教を人一倍勉強するようになっていた。